国内最古の後期旧石器時代人骨の頭蓋復元と復顔に成功

岡崎助教らの研究グループが日本人のルーツに迫る、国内最古級の後期旧石器時代人骨の頭蓋復元と復顔に成功

 

【研究体制】

沖縄県立埋蔵文化財センター

白保人骨総合研究グループ                                                                                                                     岡崎健治(鳥取大学助教)、土肥直美(代表:元琉球大学医学部准教授)、                                                                                                             河野礼子(慶應大学准教授)他

国立科学博物館

 

【概要】

本研究では、白保竿根田原(しらほさおねたばる)洞穴遺跡から発掘された後期旧石器時代人骨のうち、保存状態が極めて良好であった4号人骨の頭蓋(図1)についてデジタル復元および顔貌の復元(復顔)を試みました。

図1

図1 4号人骨の頭蓋骨(土肥直美・岡崎健治提供)

 

この人骨は、男性で、死亡年齢は30代から40歳前後、身長は165.2 cmと推定されます。より完全な頭蓋を復元するため、バラバラの頭蓋骨片をクリーニング・接合し、遺存部分をX線CT撮影して3次元の形態データを取得しました。欠損部については、対応する反対側のデータを鏡像反転することによって作成し、デジタル復元に成功しました(図2)。

図2

図2 4号人骨の3次元デジタル復元(河野礼子提供)                                                                                 -灰色が残存部分、紫色が正中面に対して反転して復元・追加した部分-

 

骨そのものやデジタル復元された頭蓋像をもとに、人骨の形態解析を進めたところ、4号人骨の頭蓋形態は、沖縄の港川人(後期旧石器時代)や縄文時代人、中国南部の柳江人(後期旧石器時代)やベトナムのホアビン集団(中石器時代)など、琉球列島よりもさらに南方系の人々に近いことがわかりました(図3)。

 図3

図3 頭蓋計測10項目を用いたペンローズの形態距離 (岡崎健治提供)                                                                                           -形態距離行列を多次元尺度法で2次元に展開-

 

さらに、4号人骨の生前の顔貌を復元するために、デジタル復元した頭蓋のデータから3次元プリンターを用いて頭蓋模型を作製し、これに、あらたに超音波画像診断装置で取得した現代日本人の顔面軟部組織の厚さデータをもとに肉付けを行いました(図4)。復元された顔貌では顔高が低く額が幅広であったり、鼻根部が強く陥凹したりする特徴が明瞭となり、当時の人々の容姿を具体的に推察できるようになりました(図5)。

本学医学部解剖学講座助教の岡崎健治博士は、本研究の根幹をなす骨形態解析や、本学生命科学科を平成29年度に卒業した木村佳乃と共同で、復顔に必要な顔面軟部組織の厚さデータの収集に従事しました。

図4

図4 肉付け工程(戸坂明日香・坂上和弘提供)                                                                                     -3次元で復元したデジタルデータを3次元プリンターで出力、それを土台に研究結果を考慮しつつ肉付け-

 

 

図5

図5 復元された4号人骨の顔貌(戸坂明日香・坂上和弘提供)

 

【研究背景】

白保竿根田原洞穴遺跡は、沖縄県石垣島の後期旧石器時代~近世の人骨や動物骨が出土する複合遺跡です。新石垣空港建設に伴う調査で発見され、沖縄県立埋蔵文化財センターが2012~2016年にかけて調査を実施しました。後期旧石器時代の化石人骨は1100点を超え、出土量は世界でも最大級に及びます。少なくとも4体の骨格が確認されており、このうち4号人骨はおよそ2万7000年前のもので、顔かたちが分かるものとしては国内最古となります。本遺跡に関する概要は、2017年5月19日付け新聞各紙など各メディアで速報されました。

 

【研究成果】

・沖縄県・石垣島の白保竿根田原洞穴遺跡から発掘された後期旧石器時代の人骨の中で、4号人骨の年代は約27,000年前のものだと推定されます。

・こうした年代値は、この人骨が、顔かたちの分かるものとしては国内最古の後期旧石器時代人骨であることを意味します。

・保存状態の良好な4号人骨の頭蓋について3次元デジタルデータを取得し、これをもとに頭蓋のデジタル復元に成功しました。

・骨およびデジタル復元像をもとに形態解析を進めた結果、琉球列島よりもさらに南方系の人々の頭蓋に近いことがわかりました。

・3次元プリンターを用いてデジタル復元した頭蓋の模型を作製し、顔面の軟部組織の厚さに関するデータに基づいて肉付け(復顔)を行いました。

・復元された顔は、顔高が低く額が幅広であったり、鼻根部が強く陥没したりする特徴が明瞭となり、当時の人々の容貌をより具体的に推察できるようになりました。

 

【今後の展開】

本研究は、対象とした人骨が日本最古級であることや極めて完成度の高い頭蓋のデジタル復元および復顔に成功したことから、日本人のルーツを探るうえで大変重要な手がかりになることが期待されます。

 

【研究の公開】

研究成果の概要は、2018年4月20日付け新聞各紙やテレビなど各メディアで速報されました。詳細については、「Anthropological Science (Japanese Series)」に2018年4月9日付けで受理された原著論文「3 次元デジタル復元に基づく白保4 号頭蓋形態の予備的分析と顔貌の復元」および4月20日付けで受理された原著論文「超音波診断装置を用いた顔面軟部組織の厚さの測定: 日本人頭蓋骨の復顔への応用をめざして」が間もなく早期公開される予定です。

復顔模型は2018年4月20日(金)~ 6月17日(日)まで、国立科学博物館の企画展「沖縄の旧石器時代が熱い!」で公開されています。